前回の投稿に引き続き、1970年代から現在にかけての腕時計の変遷をご紹介します。
(1930年代~1960年代は、こちらの投稿をご覧ください!)
1970年代
日本製のクォーツ時計の誕生による影響
1960年後半に、日本のセイコーによってクォーツ(電池で動く)時計が誕生しました。
クォーツ時計は、時間が非常に正確なうえに、安価で、大量生産に向いていました。
スイス製の高価な機械式時計は、精度においてクォーツ式の時計には敵いません。
市場にクォーツ時計が出回ると、スイス製の高価な機械式時計は、クォーツ時計との差別化のために「高精度」ではなく「クラフトマンシップ」と「独自性のあるデザイン」を押し出していく必要に迫られました。
こうして、多くのスイスブランドは宝飾時計や、凝ったデザインに取り組むようになりました。
こうした背景から、1970年代になって初めて時計業界が腕時計のデザインに注目し始めます。
腕時計の「デカ厚(大きく、厚い)」化
1969年ごろの初期のクォーツ時計は、ムーブメントが四角であったため角ばったケースを必要としていました。
また、クォーツ時計が新しいデザインを求めていたことも相まって、デカ厚(大きく、厚い)ケースをもつデザインが出回るようになります。
すると、機械式時計も新しい時代に乗り遅れないように、斬新で大きなデザインの時計が多く作られるようになります。
元祖ラグジュアリースポーツ ロイヤル オークの誕生
1970年代を代表する時計の1つに、オーデマ ピゲのロイヤル オークがあります。
これまでにご紹介して「デカ厚」とは異なり、薄型の機械式時計ですが、「八角形の異形ベゼル」や「直径が39mmのケース」「ラグをなくしたデザイン」などは1970年代のトレンドに沿っています。
ブレスレット付き腕時計
1970年代後半のトレンドは、ブレスレット付き腕時計でした。
1972年のロイヤル オークに始まり、ボーム&メルシエのリビエラ、バテック フィリップのノーチラス、ヴァシュロンコンスタンタンの222などが次々と誕生し、ひとつのジャンルとして定着しました。
その他のブランドも、ステンレス製のブレスレット腕時計を作りだします。
その傾向は、オイルショック以降もさらに加速します。
金が高騰し、各ブランドは金以外の素材で高級時計を作らざるを得なくなったためです。
1980年代
薄型への回帰
1980年代のトレンドは、薄型化への回帰でした。
この動きは、風防にサファイアクリスタルが使われ始めたことが要因の1つだと思われます。
サファイアクリスタルは薄く、非常に頑丈でした。
ただし、当時の技術では、サファイアクリスタル製の風防は平面以外に成形することができず、完全に平らなものになっていました。
すると、クォーツ時計の薄型化が進んだこともあり、腕時計のデザインは、安価なものでも高価なものでもすべてが平たくなってしまうという状況になってしまいました。
その結果、かつての「薄い=高級」という概念は、クォーツ時計とサファイアクリスタルの普及によって完全に壊れてしまったといっても過言ではないと思われます。
立体化へ
このような状況を打開すべく、多くのブランドはベゼルやケースサイドに立体感を持たせて高級感を作り出そうと努力し始めます。
ちなみに、72年に誕生したロイヤル オークは、薄型でありながら立体感を持っていたという点で、80年代以降のトレンドに先駆けていたといえます。
今あるほどんどすべての時計が、膨らんだベゼルをもっていることを考えると、ロイヤル オークがもたらせた影響は計り知れないと思います。
また、ベゼルを2段に分けた「ステップベゼル」が広がったのもこの時期だと思われます。
平らなサファイアクリスタル製の風防を持つ薄型の時計でも、「ステップベゼル」を採用することで平たい印象を与えず、立体的な印象を持たせる効果を期待できます。
このように各ブランドが立体感を表現するため外装に注力したことで、ブレスレットやケースの完成度がかなり高まったのだと思います。
1990年代以降
デカ厚化
1990年代以降、腕時計のデカ厚化が進みました。
1990年代以降の機械式時計は、汎用ムーブメントに独自のモジュールを付け足したものが多く、厚みのあるものが多くありました。
ムーブメントが分厚くなると、それを収めるケースも必然的に大きくする必要があり、腕時計のデカ厚化が進んだと思われます。
また、1980年代から外装の仕上げが良くなってきたことで、「仕上げを良くするなら、でかくした方が目立つ」という考えも、デカ厚化を進める理由の1つになったのだと思います。
また、このころには加工技術の進化によってサファイアクリスタル製の風防に立体的な形状を与えることが可能になりました。
さらに、ラグやブレスレットの進化によって、大きく厚い腕時計でも、腕に着けたときにフィット感のよいものを作ることができるようになりました。
自由度の高いデザインへ
近年の加工技術の進歩により、これまで実現できなかったデザインを実現できるようになってきました。
これまで技術的な制約によって生じたデザインの制約が取り除かれ、より自由なデザインを追求することができるようになったのです。
「単なる時計好き」の私としては「今後、どんな腕時計がでてくるんだろう!?」と楽しみで仕方ありません。
また、ブランド、メディアの皆さんにとっては「今後、どんなトレンドになるのか」が読みづらい時代になっているのだろうなと思います。
そんな難しい時代の中で、どんな腕時計が生まれてくるのか。どんな風に広まっていくのか。
とても楽しみです。
さいごに
2回の投稿にわたって、1930年代以降の腕時計の変遷をまとめました。
「どの時代に、どんなことがあって、どんなデザインが生まれたのか」を知ることで、今、身の周りの腕時計を見たときに「あ!この時計は○○年代の影響を受けた時計なんだ!」ということがわかるようになれば、より腕時計ライフが充実したものになるのではと考えています。
「今回書ききれなかった内容」や「調べきれなかった内容」も多くあるので、それらは今後の投稿としてまとめていこうと思います。
また、次回の投稿でお会いできれば幸いです。
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